
日本文化の発信を目的とするニューヨーク拠点の非営利団体・Japan Societyが主催する北米最大級の日本映画祭「JAPAN CUTS」。今年で19回目を迎える同映画祭のクロージング作品として、現地時間7月19日(日)、綾瀬はるかと千鳥・大悟が主演を務める映画『箱の中の羊』が上映された。以下、オフィシャルレポートを紹介する。

本作は北米でNEON配給により現地時間7月24日(金)から公開を控えており、その先駆けとなる上映には多くの現地映画ファンが来場。上映前には是枝裕和監督が作品への思いを語り、上映後には映画評論家Tomris Laffly氏(Freelance Film Critic/New York Film Critics Circle)をモデレーターに迎えたQ&Aを実施した。

上映前のイントロダクションでは、是枝監督が「ワールドカップ決勝の日にありがとうございます」と観客へ呼びかけ、会場の笑いを誘う場面も。本作の着想について、中国で急速に広がる生成AIビジネスから着想を得たことを明かしながらも、「『A.I.』や『ブレードランナー』のようなSF作品ではなく、あくまで自分のファミリードラマとして観ていただきたい」と作品への思いを語った。
また上映後のQ&Aでは、モデレーターからの質問に一つひとつ丁寧に回答していった。物語が「事件から2年後」という時間設定になっている理由については、「悲しみと向き合い始めて少し時間が経った頃を描きたかった」と説明。
また、本作がディストピア的なAI作品ではない理由について問われると、「ドラえもんを見て育ったからです」とユーモアを交えて答え、会場は笑いに包まれた。その上で、「AIと別々に生きていくこと」と「親が子離れしていくこと」を重ね合わせて描こうと考えたことを明かした。

建築家という題材については、建築家・西沢立衛氏の「ガラスと木の調和」という考え方に共感したことがきっかけだったといい、「同質なものだけで集まるのではなく、異質なものを共存させて作品をつくるという考え方は、自分が映画をつくる際の姿勢にも通じている」と語った。
AIの少年・翔を演じた桒木里夢については、「通常のオーディションで選んだ」としながらも、「男の子は日によってパフォーマンスが変わったり、集団にいる時と一人の時で印象が違ったりするため、女の子以上に慎重に見ていた」と振り返った。一方で、「AIらしく演じてほしいという演技指導はしていない。むしろ子どもがふと大人びたことを言う瞬間の方が面白いと感じている」と演出意図を明かした。
綾瀬はるかと大悟というキャスティングについては、「異質な組み合わせに挑戦した結果、うまく機能したと思う」とコメント。撮影前には劇中で使用する家族写真を撮影したことで、「3人の家族としてのコミュニケーションが自然とできあがった」と、その効果を語った。
音楽については、坂東祐大に基本的には一任していたものの、「木が出すような音にしてほしい」とだけリクエストした結果、それがチェロという形で表現されたという。また、坂東が撮影現場を見学した直後に楽曲を書き上げ、その楽曲が撮影時の参考にもなったことを明かした。
作中で重要なモチーフとなる『星の王子さま』について問われると、「パリで買ったスノードームをずっと持っているくらい好き」と笑顔で回答。「AIと人間の違いは想像力にあると考えた時、子どもへの読み聞かせの場面には『星の王子さま』が最もふさわしいと思った」と、その選択理由を説明した。
最後に、AIとの向き合い方について質問されると、「今回初めてChatGPTに脚本を読ませてみたら、とても褒めてくれた」とエピソードを披露。
しかし、「内容は正しい感想だったが、AIには人生経験もなければ好みの偏りもない。だから感想としてはあまり嬉しくなかった」と率直な心境を語り、「人の心を動かすのは、その人の人生と結びついた言葉だと思う。AIは生活のさまざまな場面で役立つ存在になると思うが、映画づくりには違うと思う」と締めくくると、会場からは大きな拍手が送られた。
